あの方の一言【15回】

by | Jul 30, 2014 | 連載記事 | 0 comments

次なる悩み

ビジネスパートナーとのパートナーシップを解消すると、色々な揉め事から解放されて自由になったことで嬉しかった反面、正直自分で起業するということの不安で一杯でした。留学センターでの仕事を辞め、法律を勉強しようと決めた時は実は「国家試験に受かったら起業する」というところまで考えていなかったので、いざ自分がその立場になると(しかも一人で何もかもやるとなると)これからのことを心配して悩んでばかりでした。その中でも一番悩んでいたのはオフィスの立地条件やその費用についてでした。
投資家がパートナーシップとして私とビジネスをしなくなったことで、オフィスの賃貸の手続き、改装、オフィス家具の購入、その他諸経費などすべて私が負担しなければならず、仕事を辞めて学生を3年間し、国家試験のために半年間勉強していた私にとっては金銭的にとても大きな負担でした。そして二つの移民法律事務所で働いていた時に広々としたオフィスで仕事をすることを経験していたので、必然的に「法律事務所=駅からすぐ近くの素敵なオフィス」という印象も持っていました。でも自分には経験や知識はあっても、そんな資金はありません。このことについて暫く悩んでいました。

強烈な言葉

起業するにあたっての第一ステップは会社登録をすることです。会社名はなるべくその会社の業務内容が分かるような名前がいいと本で読んだことがあったので、その通りにしました。そして会社登録日は私の誕生日を選びました。いつまでも起業した日付を忘れないということと、自分の誕生日ということもあってgood luckの意味も込めてでした。登録した際に書類に署名しながら、「これから新しい道が開けるんだ」と思って感慨深い気持ちになりました。

会社登録が無事終了し、さてこれからどうしようと考えていた時に一人の日本人の方とお話する機会がありました。その方は以前にパートナーシップを組んで起業すると決定した際に広告掲載をお願いした、トロント日系新聞の編集長の方でした。パートナーシップを解消したことを伝えると、「綾さんこれから大変だなぁと実は思っていたのですよ」とおっしゃいました。色々とご迷惑をお掛けしたことをお詫びし、これからも宜しくお願いしますと申し上げると、「それじゃぁ大きく綾さんのトロント日系社会でのデビューを取り上げましょう。」とおっしゃって下さいました。私はそんなことをして頂けるとは夢にも思っていなかったので、「いえいえまだオフィスもないので‥‥」と辞退する考えを示し、当分の間はホームオフィスという環境で細々と会社を経営することになるとお伝えしたところ、「ホームオフィスでもいいと思いますよ。きらびやかなオフィスがなくても、お客様は綾さんの人柄に惹かれて必ず来ます。大丈夫。最初は誰でも何もないところから出発するのですから、私もできる限りお手伝いに乗りますし、ご相談にも伺います。今一番大切なのは綾さんが日系コミュニティーの公の場に加わったことをきちんと紙面で発表することですよ。」と力強くおっしゃって下さいました。

何が大切なことなのか

彼がおっしゃって下さったことは当時悩んでいた私の気持ちをあっという間に吹き飛ばしてしまうくらい、強烈でした。そして目から鱗でした。ホームオフィスで会社を経営することに関して 「素敵なオフィスが持てないなんて、移民コンサルタントとしてお客様に信用して頂けない」と思っていた私でしたが、彼とお話してから「そうか、自信を持って私らしく仕事すればいいんだ」と吹っ切ることができました。大切なのはゴージャスなオフィスを持つことではなく、お客様が私のサービスにどれだけ満足して下さるかということだと、その時に気付きました。移民法律事務所のように広いオフィスにリーガルアシスタントを何人も雇い、お客様と最初のミーティングだけ会って後はメールのやり取りも申請書の作成もすべてアシスタント任せ‥‥という形態とは違い、最初から最後まで私とお客様一対一のサービス、すなわちお客様と私の間に(お客様の目標に向かって)強い絆を作るようなサービスを提供しようと決めました。あの時の編集長のお言葉は今でも大事に心にしまってあります。時々、その言葉を思い出して初心に戻るように心がけています。

次回は起業してから最初のお客様について振り返ります。